ECサイトの運営が軌道に乗り、売上が増えてくると、それに比例して増加するのが、残念ながら「不正注文」のリスクです。盗難されたクレジットカード情報を使った注文や、転売目的の大量購入、なりすましによる詐欺など、その手口は年々巧妙化しています。
一件の不正注文は、商品の損失だけでなく、クレジットカード会社からのチャージバック手数料など、売上の数倍もの損害に繋がりかねません。しかし、全ての注文を目視で確認するのは非現実的です。この見えない脅威から、あなたのビジネスと大切なお客様を守るのがAIの役割です。
シリーズ第28回は、ECサイトの利益を蝕む不正注文をAIがリアルタイムで検知し、セキュリティとリスク管理を強化する具体的な方法を解説します。24時間365日、あなたのストアを守り続ける、最新鋭のAIセキュリティシステムを導入しましょう。
ECサイトを脅かす不正注文の手口
対策を講じる前に、まずは敵の手口を知ることが重要です。ECサイトで横行する、代表的な不正注文のパターンを3つご紹介します。
① クレジットカードの不正利用
盗難された、あるいは不正に入手された他人のクレジットカード情報を使って商品を購入する、最も古典的で多い手口です。発覚した場合、商品は戻ってこず、売上金もカード会社に返金しなければならない「チャージバック」が発生します。
② 大量注文と不正転売
限定品や人気商品を、ボットなどを使って買い占め、フリマアプリなどで高額転売する手口です。本当に商品を欲しい一般の顧客が購入できなくなり、顧客満足度の低下やブランドイメージの毀損に繋がります。
③ なりすまし注文と住所不定
他人の個人情報を悪用した「なりすまし注文」や、存在しない住所、あるいは短期間しか利用されない私設私書箱などを届け先に指定する手口も存在します。これらもチャージバックの温床となります。
AIが不正パターンを見抜く仕組み
人間の目では判別が難しい巧妙な不正注文も、AIは膨大なデータから学習したパターン認識能力で見抜きます。
① 過去の不正データから学習
AIは、世の中で発生した数百万、数千万件もの不正注文のパターンを事前に学習しています。「どのような注文が不正につながりやすいか」という傾向を熟知しているため、新たな不正にも即座に対応できます。
② 注文情報と行動の矛盾を検知
「注文者のIPアドレスの国と、配送先の国が異なる」「深夜3時に初回顧客が高額商品を複数注文」といった、注文情報やサイト内での行動における、通常とは異なる「矛盾」や「違和感」をAIが検知します。
③ 数百の項目を瞬時にスコアリング
IPアドレス、メールアドレス、注文金額、過去の利用履歴、購入までの時間など、数百にも及ぶ項目をAIが瞬時に分析。注文ごとに「不正リスクスコア」を算出し、危険度をリアルタイムで可視化します。
AI不正検知システムの導入効果
AI不正検知システムを導入することで、EC事業者は多くのメリットを得ることができます。
① 不正注文の自動キャンセル
AIが「不正リスク:高」と判断した注文を、人間の手を介さずに自動でキャンセル・保留処理します。これにより、不正注文による被害を未然に防ぎます。
② チャージバック被害の激減
不正注文を水際でブロックすることで、最も損害の大きいチャージバックの発生件数を劇的に削減できます。これにより、事業の利益率が大幅に改善します。
③ 誤検知リスクと手動確認
AIは「不正リスク:中」と判断した注文を、手動確認が必要なリストに振り分けます。これにより、全ての注文を目視確認する手間から解放され、本当に注意が必要な注文だけに集中できます。
まとめ:AIで事業と顧客を守る
ECサイトの規模が大きくなるほど、不正注文のリスクは高まります。AIによる不正検知システムの導入は、もはや一部の大企業だけのものではなく、成長を目指すすべてのEC事業者にとって不可欠な投資です。
AIで不正注文を防ぐことは、自社の利益を守るだけでなく、クレジットカード情報を盗まれた被害者や、商品を購入できなくなった一般顧客といった、すべてのステークホルダーを守ることに繋がります。Shopifyペイメントに標準搭載されている不正解析機能など、まずは身近なツールから活用を始めてみましょう。
次回の記事では、Google Analyticsなどの分析ツールにAIを組み合わせ、データから改善点を見つけ出すアクセス解析術について解説します。
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