損益分岐点とは?EC事業で重要な理由
EC事業を運営する上で、「売上は立っているのに、なぜか利益が残らない」と悩んでいませんか?その原因を解明し、事業を黒字化へ導く強力なツールが「損益分岐点分析」です。まずは、損益分岐点の基本的な意味と、なぜEC事業にとって特に重要なのかを解説します。
利益がゼロになる売上高のこと
損益分岐点とは、読んで字のごとく、損失と利益が分岐する点のことです。具体的には、売上高と費用がちょうど等しくなり、利益が「ゼロ」になる売上高を指します。この損益分岐点を超える売上があれば事業は黒字、下回れば赤字ということになります。事業の健康状態を測る、いわば「収益の体温計」のようなものです。
なぜEC事業で特に重要なのか?
EC事業は、実店舗に比べて初期投資を抑えやすい反面、広告費や送料、プラットフォーム手数料など、売上の増減に連動して発生する費用(変動費)の割合が大きくなる傾向があります。そのため、売上が伸びても、変動費も同じように増加し、思ったように利益が伸びない「薄利多売」に陥りがちです。損益分岐点を把握することで、こうしたEC事業特有の収益構造を正確に理解できます。
分析でわかる3つのメリット
損益分岐点分析を行うことで、EC事業の経営において主に3つの大きなメリットが得られます。
- メリット1:明確な売上目標を設定できる
「最低でもこの金額を売り上げなければ赤字になる」という具体的なラインがわかるため、感覚的ではない、根拠のある売上目標を設定できます。 - メリット2:コスト構造の問題点がわかる
利益を圧迫している費用が、固定費なのか変動費なのかを特定できます。これにより、的確なコスト削減策を講じることが可能になります。 - メリット3:価格設定や販促の判断材料になる
「あといくら売れば黒字になるか」「この商品を値引きしても利益は出るか」といった、日々の経営判断をデータに基づいて行えるようになります。
EC事業の損益分岐点を計算する3ステップ
難しそうに聞こえる損益分岐点ですが、3つのステップで誰でも簡単に計算できます。ここでは、具体的な計算方法をステップごとに見ていきましょう。計算には、まず自社の費用をすべて洗い出す必要があります。会計ソフトや帳簿を手元に準備して進めてみてください。
ステップ1:費用を固定費と変動費に分ける
まず、事業にかかるすべての費用を「固定費」と「変動費」の2種類に分類します。これは損益分岐点分析で最も重要な作業です。
- 固定費:売上の増減に関係なく、毎月一定額発生する費用です。
例:事務所家賃、サーバー代、カートシステムの月額利用料、正社員の人件費、減価償却費など - 変動費:売上の増減に比例して変動する費用です。
例:商品の仕入れ原価、送料、決済手数料、梱包材費、売上連動型のWeb広告費など
※Web広告費など、どちらに分類するか迷う費用もあります。戦略的に毎月定額を投下している場合は固定費、売上に応じて増減させる場合は変動費と、自社の実態に合わせて分類しましょう。
ステップ2:限界利益と限界利益率を算出する
次に、「限界利益」を計算します。限界利益とは、売上高から変動費を差し引いたもので、商品やサービスが1つ売れるごとに得られる利益のことです。この限界利益が、固定費をどれだけカバーできるかを示します。
計算式:
限界利益 = 売上高 - 変動費
限界利益率 (%) = 限界利益 ÷ 売上高 × 100
限界利益率が高いほど、収益性の高いビジネスであると言えます。
ステップ3:損益分岐点売上高を計算する
最後に、ステップ1で分類した固定費と、ステップ2で算出した限界利益率を使って、損益分岐点売上高を計算します。この計算で算出された金額が、あなたのEC事業が黒字化するために最低限必要な売上高です。
計算式:
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率
例えば、固定費が月50万円、限界利益率が40%の場合、損益分岐点売上高は「50万円 ÷ 0.4 = 125万円」となります。つまり、月に125万円以上売り上げれば、利益が出るということです。
目標利益から売上目標を設定する方法
損益分岐点は、あくまで利益がゼロになる点です。事業を成長させるには、利益を出す必要があります。ここでは、損益分岐点分析を応用して、達成したい利益から逆算して具体的な売上目標を設定する方法を解説します。
目標利益達成売上高の計算式
損益分岐点の計算式に、目標とする利益額を加えるだけで、必要な売上高を算出できます。固定費に目標利益を「上乗せすべきコスト」として加える、と考えると分かりやすいでしょう。
計算式:
目標利益達成売上高 = (固定費 + 目標利益) ÷ 限界利益率
この計算式を使えば、「月100万円の利益を出すには、いくら売ればいいのか」が明確になります。
具体的なシミュレーション
実際に数字を当てはめてシミュレーションしてみましょう。
- 固定費:50万円
- 変動費率:60% (限界利益率:40%)
- 目標利益:100万円
この条件で目標利益達成売上高を計算すると、
(50万円 + 100万円) ÷ 0.4 = 375万円
となり、月に375万円の売上が必要であるとわかります。この金額を元に、日々の販売計画やマーケティング戦略を立てていくことができます。
安全余裕率で事業の安定性を確認
目標設定と合わせて確認したいのが「安全余裕率」です。これは、現在の売上高が、損益分岐点売上高をどれくらい上回っているかを示す指標で、事業の安定性を測るのに役立ちます。
計算式:
安全余裕率 (%) = (現在の売上高 - 損益分岐点売上高) ÷ 現在の売上高 × 100
この数値が高いほど、売上が減少しても赤字に陥るリスクが低く、経営が安定していると言えます。一般的に20%以上あると安全とされています。
まとめ
損益分岐点分析は、EC事業の収益構造を可視化し、的確な経営判断を下すための羅針盤です。この記事で解説した3つのステップで損益分岐点を計算し、自社の現状を把握することから始めてみましょう。そして、算出した数値を元に、具体的な利益目標と、それを達成するための売上目標を設定してください。データに基づいた目標設定と改善を繰り返すことが、EC事業を安定的な黒字へと導く確実な一歩となるはずです。









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