AIを活用したCRM戦略で、顧客一人ひとりとの対話の第一歩を踏み出したあなた。しかし、そのコミュニケーションはまだ、メールやLINEといった「サイトの外」が中心ではありませんか?D2Cブランドが目指すべき顧客体験(CX)の究極形は、そのパーソナライズを「サイトの中」で実現することにあります。
従来のパーソナライズが、店員があなたの「名前」を覚えてくれることだとすれば、ハイパーパーソナライゼーションは、店員があなたの名前はもちろん、好みの商品を完璧に把握し、あなたが来店した瞬間に、あなたのためだけに店内ディスプレイを並べ替えてくれるようなものです。
新シリーズ第8回は、AIが実現する究極の顧客体験「ハイパーパーソナライゼーション」の世界に迫ります。ECサイトそのものが、顧客一人ひとりのためだけに姿を変える。そんな未来の接客を、今日からどう実現していくかを解説します。
ハイパーパーソナライゼーションとは
ハイパーパーソナライゼーションは、従来のパーソナライゼーションを遥かに凌駕する、次世代の顧客体験です。
① リアルタイムな体験の最適化
顧客がサイト内でクリックしたり、商品を閲覧したりする、その一つ一つの行動をAIがリアルタイムで分析。その瞬間の顧客の興味・関心に合わせて、サイトの表示内容を動的に最適化します。
② オフサイトからオンサイトへの連携
顧客が過去に開封したメールの内容や、クリックした広告の情報もすべて反映されます。オフサイトでの行動とオンサイトでの体験がシームレスに繋がり、一貫したメッセージを届けることができます。
③ 究極のOne to One体験
最終的には、すべての顧客が、自分専用にカスタマイズされたECサイトを訪れているかのような体験を提供します。これにより、顧客は「自分はその他大勢ではなく、特別な存在として扱われている」と感じ、強いブランドロイヤルティを抱きます。
AIがサイトをどう変えるか
ハイパーパーソナライゼーションは、ECサイトのあらゆる要素を、顧客一人ひとりのために最適化します。
① TOPページの動的コンテンツ
サイトの「顔」であるトップページのメインバナーや特集コンテンツが、顧客ごとに変化します。初めて訪れた顧客には「初回限定クーポン」を、優良顧客には「VIP会員様限定の新商品」を、といった出し分けをAIが自動で行います。
② パーソナライズされた検索結果
顧客がサイト内検索を使った際に、その人の過去の購買傾向や閲覧履歴に基づいて、検索結果の表示順序を最適化します。「コーヒー」と検索しても、「深煎り好き」の顧客には深煎り商品が上位に表示されるようになります。
③ 個別のプロモーション表示
プロモーションの表示も個別最適化されます。価格に敏感な顧客には「10%OFFクーポン」を、まとめ買い傾向のある顧客には「3点以上購入で送料無料」のオファーをAIが判断し、出し分けます。
実現するための技術要素
この未来の体験は、3つの技術要素の連携によって実現されます。一つずつステップを踏んで導入していくことが可能です。
① まずは簡単なセグメントから
最初のステップは、「新規顧客」と「リピート顧客」でトップページのバナーを出し分けるなど、Web接客ツールを使った簡単なセグメントでの施策です。これだけでも大きな効果が期待できます。
② CDPとWeb接客ツールを連携
次のステップとして、CDP(顧客データ基盤)とWeb接客ツールを連携させます。これにより、「高LTV層」「離反危険群」といった、より精度の高いAIセグメントに基づいた、高度なパーソナライズが可能になります。
③ リアルタイムAIエンジンへ
最終的には、顧客のリアルタイムの行動を瞬時に解析し、最適なコンテンツを判断するAIエンジンを導入。これにより、完全なハイパーパーソナライゼーションが実現します。
まとめ:すべての顧客をVIPにする
ハイパーパーソナライゼーションとは、すべての顧客を、まるで一人ひとり専属のパーソナルショッパーが付いているかのような、最高のVIPとしておもてなしする思想です。その顧客のスタイルを理解し、過去の購入履歴を記憶し、その人のためだけに完璧にキュレーションされた店内で買い物体験を提供する。これこそが、真のブランドロイヤルティを生むのです。
この壮大なビジョンも、まずはトップページのバナーを一つ、新規顧客とリピート顧客で出し分けるという小さな一歩から始まります。あなたのサイトも、究極の顧客体験への旅を始めてみませんか。
次回の記事では、AIを新たな販路開拓に活かす、「ライブコマース・越境ECへの挑戦」について解説します。
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