そもそも運転資金とは何か
開業資金(初期費用)と混同されがちですが、運転資金は全くの別物です。事業を安定的に継続させるために、その本質を正しく理解しておくことが、すべての資金計画のスタート地点となります。
事業を回すための血液
運転資金とは、一言で言えば「事業を継続的に運営していくために必要なお金」のこと。人間でいう「血液」のようなものです。売上が入金されるまでの間の仕入れ費や経費の支払いに充てられ、この資金が尽きると、たとえ帳簿上は黒字でも事業は停止してしまいます。
固定費と変動費の違い
運転資金は主に、売上の増減に関わらず毎月発生する「固定費」(家賃、人件費、リース料など)と、売上に比例して変動する「変動費」(材料費、仕入れ費、販売手数料など)から構成されます。この二つを正確に把握することが、資金計画の第一歩です。
なぜ黒字でも倒産するのか
「黒字倒産」は、帳簿上は利益が出ているにも関わらず、手元の現金が不足して支払いができなくなる状態です。これは、売掛金の入金サイトが支払サイトより長い場合などに発生します。このタイムラグを埋め、倒産リスクを回避するのが運転資金の重要な役割です。
1ヶ月分の運転資金を計算する
何ヶ月分必要かを知るためには、まず「1ヶ月あたりいくら必要なのか」を算出する必要があります。以下の3ステップで、自社に必要な月々の運転資金を具体的に計算してみましょう。
STEP1:固定費を洗い出す
まずは、売上がゼロでも必ず発生する固定費をすべてリストアップします。家賃、給与・役員報酬、水道光熱費、通信費、リース料、各種保険料、借入金の返済額(元本部分を除く利息)などが該当します。抜け漏れがないように、細かく確認しましょう。
STEP2:変動費を予測する
次に、事業計画に基づき、1ヶ月の売上に伴って発生する変動費を予測します。商品の仕入れ費や原材料費、外注費、販売手数料、広告宣伝費などです。創業初期は予測が難しいため、少し多めに見積もっておくと安心です。
STEP3:合計額を算出する
最後に、洗い出した「固定費」と予測した「変動費」を合計します。この金額が、あなたの事業が1ヶ月間活動するために最低限必要となる運転資金の額です。
【1ヶ月の運転資金 = 固定費の合計 + 変動費の予測額】
必要な運転資金の月数と目安
1ヶ月分の必要額が算出できたら、いよいよ本題です。その運転資金を何か月分、手元に現金として用意しておくべきなのでしょうか。事業の安全性と成長性を両立するための、一般的な目安を解説します。
最低でも「3ヶ月分」が基本
業種を問わず、一般的に必要と言われるのが「最低でも3ヶ月分」の運転資金です。これは、事業が軌道に乗り、売上が安定して入金されるようになるまでの期間を乗り切るための最低ライン。予期せぬトラブルがあっても、すぐには立ち行かなくなるという事態を避けるための防衛資金です。
安心して攻めるなら「半年分」
より安心して事業運営に集中し、広告宣伝などの成長投資にも踏み切りたいのであれば、「理想は半年分」の運転資金を確保しておくことを強く推奨します。資金的な余裕は、経営者の精神的な余裕に直結し、目先の資金繰りに追われず、長期的な視点での意思決定を可能にします。
業種による違いも考慮する
入金サイトが長い建設業や、在庫を多く抱える小売業などは、運転資金がより多く必要になる傾向があります。一方で、入金が早い現金商売の店舗や、在庫を持たないサービス業などは、比較的少なく済む場合もあります。自社のビジネスモデルの特性も加味して判断しましょう。
まとめ:資金繰りは経営の要
運転資金の確保と管理、すなわち「資金繰り」は、事業の規模や業種に関わらず、すべての経営者にとって最重要課題です。「最低3ヶ月、理想は半年」という目安を基準に、自社の状況に合わせた安全な資金計画を立てることが、事業を倒産のリスクから守ります。そしてそれは、未来への新たな挑戦を可能にするための土台ともなるのです。定期的に資金繰り表を見直し、常に会社の体力を把握する習慣をつけましょう。









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