特商法で定められた表記義務
ECサイトで商品を販売する際、「特定商取引法」はすべての事業者が守るべき法律です。この法律では、事業者の身元を明らかにし、消費者が安心して取引できるよう、氏名・住所・電話番号などの情報をサイト上に明記することが義務付けられています。個人で活動する方にとっては、不安に感じる点かもしれません。
なぜ個人情報の表記が必要か
この表記義務の目的は、消費者保護にあります。万が一、商品トラブルや連絡の行き違いが発生した際に、消費者が事業者と確実に連絡を取れるようにするためです。顔が見えないオンライン取引だからこそ、事業者の責任の所在を明確にすることが、健全な市場の維持に不可欠とされています。
事業者名(氏名)のルール
事業者の名称を記載する項目では、法人の場合は登記された法人名を、個人事業主の場合は戸籍上の氏名(本名)を記載する必要があります。普段使っているペンネームやショップ名(屋号)だけを記載することは認められておらず、必ず本名を併記、または記載しなくてはなりません。
住所と電話番号のルール
住所は、実際に事業活動を行っている場所の住所を記載するのが原則です。自宅で運営している場合は、その自宅住所となります。電話番号も同様に、消費者からの問い合わせに確実に応答できる連絡先を記載する必要があります。これらの情報をインターネット上に公開することに、多くの個人事業主が懸念を抱いています。
【実践】個人情報を省略する条件
個人情報を公開するリスクを懸念する声を受け、法律には一定の条件下で表記を省略できるルールが設けられています。ただし、誰でも無条件に省略できるわけではなく、正しい手順と記載方法を守る必要があります。
省略の条件となる「開示請求」
住所と電話番号の表記は、消費者から開示の請求があった際に、遅滞なく(=すぐに)その情報を提供できる体制が整っていれば、ウェブサイト上での常時表示を省略することが認められています。つまり、「聞かれたらすぐに答えます」という約束を明記することが、省略の条件となります。
省略する場合の正しい記載例
住所と電話番号を省略したい場合は、表記ページに以下の文言を正確に記載してください。この一文があることで、法律の要件を満たすことができます。
記載例:
「※事業者の住所(所在地)・電話番号については、ご請求があった場合、遅滞なく開示いたします。」
この記載とともに、請求のための連絡先(メールアドレスやお問い合わせフォーム)を明記しておく必要があります。
氏名(本名)は省略不可
最も重要な注意点は、この省略ルールが適用されるのは「住所」と「電話番号」のみであるという点です。事業者の氏名(個人事業主の場合は本名)については、省略することが認められていません。ここは必ず公開が必要な情報であると理解しておきましょう。
個人情報を守るための代替サービス
「省略ルールだけではまだ不安」「そもそも請求された際に自宅住所を教えたくない」という方もいるでしょう。そのような場合には、個人情報を公開せずに済む代替サービスを活用する方法があります。
バーチャルオフィスの活用
バーチャルオフィスは、事業用の住所と電話番号をレンタルできるサービスです。ここで借りた住所と電話番号は、特定商取引法に基づく表記に正式に利用することができます。物理的な事務所は不要だが、事業用の住所が欲しいという個人事業主にとって、最も一般的な解決策の一つです。
プラットフォームの代行表記
BASEやSTORES.jpといった一部のECサイト作成プラットフォームでは、運営会社の住所と電話番号を事業者のものとして代わりに表記してくれるサービスを提供しています。プラットフォームの利用料はかかりますが、最も手軽に個人情報を保護できる方法として、多くの個人事業主に利用されています。
電話転送・代行サービスの活用
電話番号の公開に抵抗がある場合は、専用の事業用番号にかかってきた電話を自分の携帯電話に転送してくれる電話転送サービスや、一次対応を代行してくれる電話代行サービスを利用する方法もあります。これにより、個人の携帯番号を公開せずに、お客様からの連絡に対応することが可能になります。
まとめ
特定商取引法に基づく事業者情報の表記は、法律上の義務であると同時にお客様の信頼を得るための重要な要素です。個人事業主が抱えるプライバシーの懸念に対しては、「省略ルールを正しく利用する」または「バーチャルオフィスなどの代替サービスを活用する」という2つの有効な解決策があります。ご自身の事業スタイルや安心できる範囲に合わせて最適な方法を選び、法律を守りながら安全にECサイトを運営していきましょう。











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